相続
2018.8.24

相続法改正。「配偶者居住権」とは?

(写真=Andy Dean Photography/Shutterstock.com)
(写真=Andy Dean Photography/Shutterstock.com)
2018年7月6日に遺産相続に関する改正民法が参議院で可決・成立し、1980年以来の大幅な変更が決まりました。その中でも目玉となるのは、「配偶者居住権」の創設です。これは、高齢化社会が進む中で、残された配偶者が高齢であるケースが増えており、そうした配偶者の老後の生活を安定させることを目的としてつくられたものです。今回は、相続法改正に伴う「配偶者居住権」の具体的な内容について解説します。

配偶者居住権とは?

配偶者居住権は、短期のものと長期のものに分けられます。どちらの居住権も、亡くなった配偶者が所有する居住建物に住んでいた残された配偶者が、そのまま無償で住み続けられる権利を保障するものです。短期と長期の違いは、住み続けられる期間と、遺産分割の計算のうえで考慮されるかどうかです。長期居住権では、残された配偶者は原則として終生自宅に住み続けることができます。また、協議のうえで、一定期間と定めることも可能です。

一方、短期居住権では、相続開始から6ヵ月後か、遺産分割によって居住建物を配偶者以外の人が所有することになるまでの、どちらか遅い日までの間とされます。遺言などによって第3者が所有することになった場合は、その第3者が配偶者に退去するよう申し入れてから6ヵ月が過ぎるまで、無償で住み続けることが可能です。

これまでも、同居していた場合は、残された配偶者は遺産分割が終了するまでは住み続けられるとする最高裁の判例があります。(1996年12月17日判決民集50巻10号2778貢)しかし、完全にその居住権が保護されていたとはいえませんでした。そのため、短期居住権が定められたことには大きな意味があります。また、遺産分割に関して短期居住権は財産権として計算に含めないため、配偶者が得る他の相続財産が減ることはありません。一方、長期居住権の評価額は計算に含めるため、他に受け取る相続財産が減ることになります。

配偶者(長期)居住権と所有権の関係

長期居住権が認められるのは、遺言で配偶者居住権の設定に関する故人の遺志が書き残されていたり、相続人間の話し合いで設定についての合意が見られたりした場合などが想定されるでしょう。ただし、この居住権はその居住建物を使用する権利であって、居住建物の処分などができる所有権とは区別されます。配偶者が居住権を得ても、所有者の承諾なしに、第3者に使用させることはできません。

また、居住権自体を他人に譲渡することもできません。つまり、非常に限定的な権利なので、その評価額は所有権に比べて低くなるとされます。

配偶者居住権の利用が想定されるケース

例えば、相続人が妻と子どもの2人で、遺産が3,000万円の住居と3,000万円の預貯金だったとします。妻と子どもの法定相続分は2分の1ずつです。これに従って遺産分割すると、妻が自宅に住み続けるために自宅を相続した場合、3,000万円の預貯金は子どもが相続することになります。しかし、これでは妻の生活は非常に苦しくなってしまいかねません。

このような場合に、妻が所有権ではなく居住権だけを取得することが解決策となる可能性があるのです。居住権は、妻の年齢や自宅の状態によっても評価が変わりますが、例えば1,600万円の評価だった場合、居住権のない所有権(以下、負担付き所有権とします)の評価は1,400万円となります。子どもがその負担付き所有権を相続すると、預貯金は妻が1,400万円相続することが可能です。(子どもの預貯金の相続は1,600万円)

配偶者居住権の利用の前に気を付けておきたい点

配偶者居住権を得たものの、高齢のため一人での生活が難しくなり、介護施設に入居するようなケースもあるかもしれません。しかし、この場合でも居住権は譲渡することができません。また、負担付き所有権を売却することも不可能に近いと考えられます。また、誰も住んでいなくても固定資産税などの経費は毎年かかると点も注意が必要です。配偶者居住権の活用を考える際、上記の例は仕方ないとしても、居住権を得る配偶者がその家に住み続ける意思があることが前提条件となるといえます。

また、配偶者居住権は婚姻期間と関係はありません。そのため、再婚間もない後妻が居住権を持ち、その土地建物の負担付き所有権を前妻の子どもが持つケースも出てくる可能性もあるでしょう。生活上必要な修繕については居住者が費用を負担しますが、それ以外の改築や増築などの費用は所有権者が負担します。後妻と子どもの関係が余り良くないなら、自分が使えない土地建物に対して相続税や固定資産税を支払うことに子どもが不満を持ち、一層不仲となることもあるかもしれません。

さらに、残された妻が居住権を得て子どもが負担付き所有権を相続したような場合、負担付き所有権の評価は居住権の分だけ低くなるため、当然、子どもの相続税も相応に安くなります。しかし、妻(子どもの母親)がその後亡くなった際には居住権は自動消滅するので、子どもが所有する土地建物の評価もまた同時に上がるはずです。その評価の上昇分にも子どもの相続税として課税されるのかどうかはまだ不明です。

実際の施行は2020年7月までに行うと定められています。どのように運用されるのか、細かい点についてはこれからより明らかになる部分もあるでしょう。今後も情報を確認しながら、さまざまな制度を賢く選択・活用することがやはり重要です。

北垣愛
国内外の金融機関で、グローバルマーケットに関わる仕事に長らく従事。証券アナリストとしてマーケットの動向を追う一方、ファイナンシャルプランニング1級技能士として身近なお金の話も発信中。ブログでも情報発信中。

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